指導する学生34人。そのすべてが中国人の留学生になった研究室がある。
早稲田大学大学院の北九州キャンパス。ここで画像処理などに使う大規模集積回路の開発に取り組む後藤敏教授(65)の研究室だ。
中国からの留学生は年々増え、ただ一人残っていた日本人の学生も今春。巣立っていった。
留学生はみな中国の名門大学出身。ゼミや実験では英語を使うが、仲間同士の会話はつい中国語になる。博士課程の趙雄心さん(26)は「中国の大学院にいるような気分」と笑う。
国際化を揚げる北九州キャンパスは留学生が85%を占める。その中でも全員が中国人の研究室はここだけだが、後藤教授は、「重要なのは人材。国籍は関係ない。彼らは向上心が強く、英語も得意。日本人の学生とは全然違う。」と言い切る。
研究室は活気づいている。昨年度は国際学術誌に論文5本が載り、国際会議での発表は44件にも達した。
就職も引く手あまたで、日本の一流メーカーに次々と採用されていくという。
中国人留学生と言うと不法就労がしばしば問題になる。だが、後藤研究室の例のように優秀な若者も増えている。彼らは日本の高校でも頭角を現し始めた。
千葉県木更津市の暁星国際高校で今春、過去最高の9人が東大に合格した。全員が中国人留学生だった。男子7人、女子2人でみな理科系。日本語のハンデも物ともしなかった。
帰国子女の受け皿となっている同校は1994年から中国人も受け入れ始めた。その数は次第に増え、今春の卒業生では114人のうち20人を占めている。寺井義行副校長(61)は「彼らはやる気が違う。ハングリー精神がある。」と話す。そんな中国の英才たちに米欧や日本の大学は熱い視線を向ける。優れた学生の獲得は激化する国際競争を勝ち抜くための鍵を握っているからだ。米ハーバード大は3月、上海の超高層ビルにアジア拠点センターを開設、学長が自ら乗り込み、留学を呼びかけた。東大や北海道なども北京に事務所を設け、勧誘に力を入れる。だが、人気が高いのは、国際化が進み、奨学金制度も充実した米国や欧州の方だ。米欧に行けない学生が仕方なく日本を選ぶケースが少なくない。
「それでも」北海道大の本堂武夫副学長(63)が語る。「日本に来た中国人の学生も十分に優秀。あらゆることに積極的だ。日本人の学生はゆとり教育で学力低下している」
暁星国際高校の寺井副校長も「日本人の生徒は『彼らは別格』と言って、中国人留学生と競うことを最初からあきらめている。東大を目指そうと思わない。」と顔を曇らせる。
科学立国を揚げる日本でも強烈な存在感を示し始めた中国の若者たち。その活力は様々な分野で猛進する中国の勢いを象徴している。
中国の急速な台頭が日中関係に新たな波紋を広げている。相互依存が深まる反面、競争や摩擦は複雑化している。日中の新潮流を検証する。
(読売新聞 平成22年5月12日掲載)